遺贈について
包括遺贈と特定遺贈について(民法964条)
第964条(包括遺贈及び特定遺贈)
遺言者は,包括又は特定の名義で,その財産の全部又は一部を処分することができる。ただし、遺留分に関する規定に違反することができない。
- 遺言による財産の処分・・つまり「遺贈」ができることを規定しています。
- 遺贈には,「包括遺贈」と「特定遺贈」のあることを定めています。
- 遺言でのみできます
- 遺言で贈与することです、遺留分を侵害しないように考慮する必要があります
- 遺言は15歳以上であれば単独でできます
- 死因贈与契約は契約ですが、遺贈は契約ではなく単独行為です
特定遺贈
- 遺産のうち、特定財産を具体的に示して遺贈することです
- 例 → 甲土地 の1/3を遺贈する・・・
- 例 → A銀行 の預貯金を全て遺贈する・・・
包括遺贈
- 遺産の全部又は一部について、一定の割合をもって示し遺贈することです + 全部包括遺贈
- 財産全部を一人の受遺者に帰属させることです
- 例 → 全財産を、何々に包括して遺贈する・・・
- 割合的包括遺贈
- 具体的財産を特定せずに、被相続人の権利のみならず、義務も含めて遺言で示された割合が受遺者に承継されます
- 例 → 全財産の1/3を、何々に包括して遺贈する・・・
- 例 → 全財産を、何々・何々・何々に各1/3ずつ包括遺贈する・・・
- 遺言によって財産を与える人を、遺贈者といいます
- 遺言によって財産を引き継ぐ人を、受贈者といいます なお、本来の相続人は、受贈者とはいいません
受遺者の対象
- 胎児は対象になれます、既に生まれたものとみなします
- 公益法人 ・各種団体、対象になれます
- 対象は、遺言の効力が発生した時点で存在していること(同時存在の原則です)
特定遺贈の受遺者の遺贈の放棄
- 遺言の効力発生後(受贈者である被相続人死後)いつでも、遺贈の放棄をすることができます
- 遺贈義務者へ意思表示します
- 家庭裁判所への遺贈の放棄の申述は不要です -
遺贈義務者
包括遺贈の受遺者
- 包括遺贈の受遺者は 相続人と同一の権利義務を有すると規定されています
- 遺贈義務者となります
- 遺産分割協議に加わることができます
- 農地の場合、不動産登記の際、農地法の許可は添付不要です
- マイナス(債務)も承継します
- 遺贈の放棄は、自己のために遺贈のあったことを知った日から、3ヶ月以内に、家庭裁判所への申述を要します
包括遺贈と相続人との違い
- 固有の権利であるため代襲しません
- 遺留分はありません
- 相続人の一人が相続放棄してもその分、受遺者の相続分は増えません
- 受遺者の不動産持分は登記をしないと、第三者に対抗できません
- 保険金受取人の[相続人]には該当しません
胎児の受遺能力・受遺欠格(民法965条)
民法965条(胎児の受遺能力・受遺欠格)
第886条及び第891条の規定は、受遺者について準用する。
(超訳)
- 受遺者は、遺贈が効力を生じたとき(民985)に、当然に権利義務を取得するので、本来であればその時に権利能力が必要となるはずなのじゃ。
- 上記のことを、法律用語で「同時存在の原則」と言い、相続についても同様と考えられておるのじゃよ。
- 原則論でいえば「権利能力を有する=出生の時以後」となるのじゃが、この原則をそのまま胎児に適用すると、胎児にとって不公平な結果となるぞ。
- そこで、この不公平な結果を避ける為に、本条において相続の場合(民886)と同じく、胎児は既に生まれているものとみなすことにした訳じゃ。
- つまり、「胎児に対して遺贈することは可能である」ということじゃな!
- なお、民法891条を準用することにより、受贈者も被相続人を害する行為をしたり、不当に相続財産を得ようとするような行為をした場合は受贈者たる地位を失うこととなる・・と規定しておる。
ワンポイントアドバイス
- 本条では、「胎児の受遺能力」があることを規定し、かつ、「受遺者の欠格事由」をも規定しておるのが、「胎児」には、「受遺者の欠格事由」となれる要素は無いぞ。
- 「受遺者の欠格事由」の準用は、受遺者が、「胎児以外」の場合であると考えるのがわかりやすいかな~。
民法963条(遺言をする能力の3)へ←・→民法966条(被後見人の遺言の制限)へ
遺贈の放棄(民法986条)
第986条(遺贈の放棄)
- 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。
- 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(超訳)
- 遺贈は単独行為であり、受遺者の意思とは無関係に効力が生じますが、受遺者の意思と無関係に受益を強制すべきではありません。
よって受遺者は
- 任意に
- 何時でも
- 遺贈の放棄ができる
こととしました。
- この条文の対象は特定遺贈と呼ばれる、遺産のうちの一部の特定の財産を遺贈された場合に限定されます(包括遺贈を含まない)。
- 「財産の4分の1を遺贈する」といった包括遺贈の場合は、放棄をする期間が相続人同様制限されているのに注意が必要です。
ワンポイントアドバイス
- 遺贈の放棄に関して「方式」はありませんが、相手方は遺贈義務者とするのが判例です。
- 放棄の効果は遡及します。
受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告(民法987条)
第987条(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告)
遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。
(超訳)
- 前条(民987)により、特定遺贈の受贈者は遺言者の死亡後いつでも遺贈を放棄出来ます。
- つまり何時放棄するかは、受遺者の意思にかかっており、受贈義務者や利害関係人としては、受遺者の意思が確定するまでは、不安定な状況におかれてしまうこととなります。
- そこで受贈義務者や利害関係人から、法律関係の安定させる手段として、本条によって「」催告権」を認められています。
催告について
- 催告をすることができる者とは「遺贈義務者」である
- 遺贈義務者とは・・・遺贈の内容を実現すべき義務を負う者をいい具体的には
- 相続人
- 相続人不存在の場合の相続財産法人
- その他遺贈の承認・放棄につき法律上の利害関係を有する利害関係人(補充遺贈の後順位受遺者、遺贈義務者の債権者など)
- 催告は、相当の期間を定めてその期間内に遺贈を承認するのか否かを催告する
催告の効果
- 催告は一切の利害関係人の一人から行うことができます。
- 催告の結果として遺贈の承認・放棄が確定する以上、その効力はすべての利害関係人に及びます。
- 催告期間内に確答をしないときは、当然に「承認したもの」とみなされます。
ワンポイントアドバイス
- 受遺者が、未成年や成年被後見人であった場合には、催告は法定代理人を相手方としてする必要があることに注意が必要です。
特定受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄(民法988条)
民法988条(特定受遺者の相続人による遺贈の承認又は放棄)
受遺者が遺贈の承認又は放棄をしないで死亡したときは、その相続人は、自己の相続権の範囲内で、遺贈の承認又は放棄をすることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
- 遺言者が死亡したことによって生じた「特定受遺者たる地位」は、もしも特定受遺者がその遺贈の承認・放棄をしないままに死亡した場合にはどうなるのか?・・という問題じゃ。
- 特定受遺者の相続人が複数いた場合は、それぞれが自分の相続分について遺贈を放棄するか承認するか決めることが出来ます。
- もしも特定受遺者の相続人が複数いて、その内の一人が「相続を放棄」をした場合は、遺贈の利益は他の相続人が相続分に応じて承継します。
- なお、受遺者の相続人が限定承認をした場合に、遺贈の承認もしたときは、遺贈の利益は相続財産として計算されます。
- 受遺者たる被相続人が前条の催告を行けていた場合、相続人は自己のために相続の開始があったことを知った時から、催告期間を起算するのか、それとも被相続人が催告を受けた時から起算するのかについての問題があるが、受遺者の相続人が自己の為に相続の開始があったときから催告期間を起算するとの説が有力のようである。
ワンポイントアドバイス
- 遺言者が「遺贈を受遺者の一身専属とする」など・・別段の意思表示を行っていれば、それに従うこととなるぞ。
遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し(民法989条)
民法989条(遺贈の承認及び放棄の撤回及び取消し)
1.遺贈の承認及び放棄は、撤回することができない。
2.第919条第2項及び第3項の規定は、遺贈の承認及び放棄について準用する。
(超訳)
- 本条でいう「撤回」は、「取消し」の意味じゃ。
- 遺贈の承認や放棄は他人の利害に関係するので、撤回により不測の事態を防止するために任意の撤回は認められていません。
- ただし、制限行為能力者が単独でした承認・放棄や、詐欺強迫による承認・放棄などによる撤回は認められることには注意が必要です。
ワンポイントアドバイス
- 制限行為能力者が単独でした承認・放棄や、詐欺強迫による承認・放棄などによる撤回は認められるが、ただし
- それを追認しうる時から6ヶ月
- 承認・放棄の時から10年間
を経過すると取消権は消滅するぞ!
関連条文
包括受遺者の権利義務(民法990条)
民法990条(包括受遺者の権利義務)
包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。
超訳
- 本条によって「包括受遺者」は「相続人」と同一の権利義務を有するものとされてはいるが、包括承継の原因の違い(一方は遺贈であり、他方は相続であるということ)による、差違があるのじゃ。
- 包括遺贈とは
- 相続財産全部を遺贈する
- 相続財産全体に対しての割合を示して遺贈する
ことです。
- 相続財産全体に対する割合を示して遺贈するとは・・例えば、「財産の3分の1を遺贈する」と遺言に記載してある場合などを言い、これも原則として包括遺贈とされています。
- 包括遺贈も、遺贈を承認・放棄することができます(民法915条)
- 相続人、他の包括受遺者と共同して「限定承認」をすることができます。
「包括受遺者」が「相続人」との差違について
- 代襲について
- 相続人である子どもが被相続人よりも先に死亡した場合、代襲相続が発生する。
- 包括受遺者が遺言者より先に死亡しても、受遺者の子は代襲しない。
- 相続の放棄について
- 共同相続人の一人が相続放棄をした場合、相続放棄をした相続人は「初めから相続人ではなかった」こととなるので、他の共同相続人の相続分が増加します。
- 共同相続人が相続放棄をしても包括受遺者の受遺分は増加しない。
- 登記の申請について
- 相続登記による移転申請をする場合には相続人の単独申請となります。
- 遺贈を原因として移転登記をする際には、共同申請する必要がある。
- 第三者に対抗できるか否かについて
- 相続人は、相続によって一切の権利義務を承継する(民法896条)ので、登記が第三者対抗要件では無い。
- 包括受遺者は登記をしないと、権利を第三者に対抗出来ない。
ワンポイントアドバイス
- 一定の事由により「単純承認」が擬制されることがあります
- 例えば、受遺者が遺産である不動産について権利を主張する場合など
- 「単純承認」すると無限に債務を承継することとなるので、相続債権者に対して包括受遺者固有の財産をもって弁済しなければならなくなります。
- また特定受遺者に対して遺贈義務者となるので、特定受遺者にも包括受遺者固有の財産をもって遺贈を実行しなければならなくなるぞ~
特定受遺者による担保の請求(民法991条)
民法991条(特定受遺者による担保の請求)
受遺者は、遺贈が弁済期に至らない間は、遺贈義務者に対して相当の担保を請求することができる。停止条件付きの遺贈についてその条件の成否が未定である間も、同様とする。
(超訳)
- 特定遺贈の目的物引渡し前や、弁済期前においては、目的物は遺贈義務者が占有しているため、遺贈義務者が特定遺贈の目的物等を処分してしまう恐れがあります。
- その結果、遺贈義務者が無資力となってしまうことが考ええられる訳じゃ。
- もしもそうなっても困らないように、特定受遺者は、遺贈義務者に対して「担保の提供」を請求することを認めた。
- 担保の種類には制限はないぞ。
- つまり、遺贈の目的物が債権の場合には「保証」をつけさせたり、「質権」「抵当権」などの設定をすることになるじゃろうね。
- 遺贈の目的物が特定物の場合には、目的物上に「質権」「抵当権」を設定することができるということじゃ。
- 念の為に付け加えると、不動産の遺贈が条件付きなどであった場合は、担保として仮登記を請求することが出来るぞ。
ワンポイントアドバイス
- 本条の保護を受けるには「受遺者が担保の提供を請求しなければならない」・・と言うことで、特定受遺者自らに遺贈のあったことを知らない間に遺贈義務者が無資力になると、保護の手段が無くなるということになる。
- つまり、遺贈をしようとする者は・・特定受遺者にその旨を伝えておいたほうが良い・・ということになるぞ。
受遺者による果実の取得(民法992条)
民法992条(受遺者による果実の取得)
受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
遺贈の目的物が「果実(※1)」を生む場合において、遺贈の履行が遅れていても、この遅滞によって受遺者が不利益を被ることが無いように保護する規定である。
- ※1「果実」とは
- 畑に対する農作物(天然果実)
- 銀行預金に対する利子
- 貸家に対する家賃(法定果実)
といったものです。
「遺贈の履行を請求することができる時」の意味
- 単純承認の場合
- 遺言者死亡時
- 期限附遺贈の場合
- 期限到来時
- 条件附遺贈の場合
- 条件成就の時
- 具体例
- 通常は、遺贈者の死亡時が遺贈の履行を請求することができるときなので、その時から現実に引き渡すまでに、遺贈義務者がその期間分の家賃などを受け取っていれば、その家賃も不動産と共に引き渡さなければなりません。
ワンポイントアドバイス
- 遺贈義務者が、この果実を収受したときには、その引渡しの義務を負い、また遅滞の責に任ずる(民412)
- 遺言者に別段の意思表示があればその効力が認められることに注意!
遺贈義務者による費用の償還請求(民法993条)
民法993条(遺贈義務者による費用の償還請求)
- 第299条の規定は、遺贈義務者が遺言者の死亡後に遺贈の目的物について費用を支出した場合について準用する。
- .果実を収取するために支出した通常の必要費は、果実の価格を超えない限度で、その償還を請求することができる。
(超訳)
- 遺贈義務者が遺贈の目的物について出した費用について誰が負担することになるのか?
・・ということについて規定したのが本条じゃ。 - 遺贈の目的物は、結局受遺者の利益となるのであるから、特定受遺者にその償還の義務を課しているのじゃよ。
- 但し、特定受遺者が償還義務を負うのは、遺言者が死亡した後に出された費用についてじゃ。
本条により特定受遺者が償還しなければならない支出の範囲
- 必要費は、全額
- 有益費は、その価格の増加が現存する場合に限り、出損額又は増加額(遺贈の場合は、受贈者の選択に従うべきだという学説が有力です)。
ワンポイントアドバイス
- 果実収取のための通常の必要費は、果実の価格の範囲で償還請求できるぞ!
関連条文
第299条(留置権者による費用の償還請求)
1.留置権者は、留置物について必要費を支出したときは、所有者にその償還をさせることができる。
2.留置権者は、留置物について有益費を支出したときは、これによる価格の増加が現存する場合に限り、所有者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、裁判所は、所有者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。
受遺者の死亡による遺贈の失効(民法994条)
民法994条(受遺者の死亡による遺贈の失効)
- 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。
- 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
- 本条で大切なことは、本条の規定が、「包括遺贈」と「特定遺贈」の双方に適用があることじゃ。
- つまり「包括遺贈」でも、「特定遺贈」でも、遺言者の死亡前に受遺者が死亡した場合には、遺贈の効力は生じないということじゃ
- もちろん、受遺者の相続人が遺贈を受けるようなことは無いぞ!!
- また、同時死亡の場合も同様に考えられちょる。
本条2項について
- 2項は停止条件付遺贈に関しても原則としては上記のとおりであるが、この場合には遺言者が別段の意思を表示したときにはそれを認めることとされています。
ワンポイントアドバイス
- なお、東京高裁の判決で死因贈与の場合も本条の規定が準用されると判断されました。
遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属(民法995条)
民法995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属)
遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
- 何らかの理由で遺贈が無効となったり、失行した場合に、遺贈の目的物は誰に帰属することとなるのかを定めたのが本条の規定じゃ。
- 遺贈が無効又は失行した場合において、遺贈の目的物は、遺言者の別段の意思表示が無い限り、相続人に帰属するとされておる。
- この条文は「包括遺贈」、「特定遺贈」の双方に適用があるとするのが一般的な考え方じゃ!
ワンポイントアドバイス
- 複数の遺贈があり、一部が無効であった場合、その無効であった遺贈の目的物が、相続人のみに帰属するのか、相続人と有効な遺贈を受けた受遺者双方に帰属するのかも争いがあるものの、前者が有力です。
相続財産に属しない権利の遺贈・1(民法996条)
民法996条(相続財産に属しない権利の遺贈・1)
遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。
(超訳)
- 遺言をする者の相続財産に属さないもの・・・つまり他人の相続財産に属する権利を遺贈した場合は、原則として無効となります。
- 例えばこんな場合です・・
- 遺言書作成時点で他人のものであった場合
- 遺言書作成後に遺言者の意思によらず権利を失った場合
- 遺言者の意思で権利を手放した場合は、遺言を撤回したものとみなされます。
- 本条の適用があるのは、その目的物が特定の物、または、権利である場合とされている。
- よって、金銭などの「不特定物」に関しては本条の適用はないのが原則であるが、不特定物でも範囲を限定したものが目的である場合には、なお本条が適用されるものと解されています。
ワンポイントアドバイス
- 遺贈によって、遺言者が処分できる財産は、その所有する財産に限ると同時に、その所有財産は相続財産に含まれていることが必要じゃ。
- 本条の但書について・・・
- 遺贈の目的物が、相続財産に属さない物(他人の物)であっても、それを取得して遺贈する意志がはっきりしている場合は、例外的に有効であるという意味です。
- 例えば「第三者A所有のB不動産をCに遺贈するので、遺言執行者Dは第三者Aより、B不動産を取得して、Cにその所有権を移転すること」と遺言した場合は、但書の適用があり、遺言は無効とはならんぞ。
- 単に、「第三者Aの所有するB不動産をCに遺贈する」旨の遺言では、遺贈を貫徹する意思に疑わしいので、このような遺贈は無効じゃ。
相続財産に属しない権利の遺贈・2(民法997条)
民法997条(相続財産に属しない権利の遺贈・2)
- 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。
- 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
- 他人の権利を取得した上で遺贈するということを明確にした遺言は有効となる(民996条但書)こととなるが、本条では、有効になった場合の遺贈義務者の義務について定めておる。
(1)遺贈義務者は第一に、
- 相続財産に属していない遺贈目的物を取得し
- これを受遺者に移転すべき義務を負う
(2)遺贈義務者は第二に、
- 原則としては他社の権利を取得して移転する義務があり、
- それが出来ないとき、または、高額な費用がかかるときは、時価相当を弁償する必要がある。
※ 時価相当の算定は、受遺者が弁償を請求した時点を基準とします。
(3)遺贈義務者は第三に、
- 取得不能が相続開始時における権利不存在による場合には、遺贈自体が無効となります。
ワンポイントアドバイス
- 遺贈義務者が目的物を取得した後に、その引渡しができなくなってしまった場合には、この不能となった原因が、「遺贈義務者の責に帰すべき事由によるか否か」によって、遺贈義務者の賠償責任が生じることもあれば、一切の義務を免れることにもなる基準となります。
不特定物の遺贈義務者の担保責任(民法998条)
民法998条(不特定物の遺贈義務者の担保責任)
- 不特定物を遺贈の目的とした場合において、受遺者がこれにつき第三者から追奪を受けたときは、遺贈義務者は、これに対して、売主と同じく、担保の責任を負う。
- 不特定物を遺贈の目的とした場合において、物に瑕疵があったときは、遺贈義務者は、瑕疵のない物をもってこれに代えなければならない。
(超訳)
- 遺贈の目的物が、相続財産に属さない(第三者の所有である場合)ときでも、遺贈義務者は受遺者に目的物を給付する義務を負っておる。
- つまり遺贈義務者は、不特定物を取得した上で移転する場合には、「追奪担保」と「瑕疵担保」の責任を負うこととなるのじゃ。
- 「追奪担保」は権利に問題があったときに責任を追うものです。
- 「瑕疵担保」は物自体に問題があったときに責任を思うものです。
- したがって、受遺者が第三者から「追奪を受けた」場合でも、なお代わりのものを給付しなければならないことになっておる。
ワンポイントアドバイス
- 「追奪を受ける」とは、「取引の相手方が権利者たる第三者から取戻しを受けること」を言うのじゃ。
- 給付物が、第三者の所有物である場合で、それが動産であれば即時取得することが多いので、追奪が問題になることは少ないと考えられておる。
- 給付物が、第三者の所有物である場合で、それが不動産の場合には「追奪」が問題となるが、不動産を不特定物として遺贈することは少ないと思うが・・・いかがじゃろうか?
遺贈の物上代位(民法999条)
民法999条(遺贈の物上代位)
- 遺言者が、遺贈の目的物の滅失若しくは変造又はその占有の喪失によって第三者に対して償金を請求する権利を有するときは、その権利を遺贈の目的としたものと推定する。
- 遺贈の目的物が、他の物と付合し、又は混和した場合において、遺言者が第243条から第245条までの規定により合成物又は混和物の単独所有者又は共有者となったときは、その全部の所有権又は持分を遺贈の目的としたものと推定する。
(超訳)
- 遺贈の目的物が「滅失」・「変造」・「占有喪失」等によって遺言者が、他人に金銭を請求する権利(償金請求権)があるときは、その権利が遺贈の目的物となると推定されるのじゃ。
- 遺贈の目的物が「他のものと附合(別個のものが一体となり、一つのものとなってしまった場合)」したり、「他のものと混和(混ざり合いもはや分離できないい状態となってしまった場合)」した場合において、遺言者がそれを単独で所有することとなったり、それの共有持ち分を取得した場合には、その権利を遺贈の目的としたものと推定し、遺贈の物情代位性を認めている。
ワンポイントアドバイス
- 遺言者が遺言作成前に、目的物が滅失していることを知らずにした遺贈は無効であると考えられる。
- 遺言者が償金請求権を生前に処分した場合には、遺言は撤回されたものとみなされておる。
- 遺言者が目的物の滅失後に償金を請求して弁済を受けた場合には、一般的にはその遺言は無効となると考えられておるようじゃ。
関連条文
- 第243条(動産の付合)
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。
- 第244条(動産の付合)
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。
- 第245条(混和)
前二条の規定は、所有者を異にする物が混和して識別することができなくなった場合について準用する。)
第三者の権利の目的である財産の遺贈(民法1000条)
民法1000条(第三者の権利の目的である財産の遺贈)
遺贈の目的である物又は権利が遺言者の死亡の時において第三者の権利の目的であるときは、受遺者は、遺贈義務者に対しその権利を消滅させるべき旨を請求することができない。ただし、遺言者がその遺言に反対の意思を表示したときは、この限りでない。
(超訳)
- 遺贈された不動産に「地上権などの用益物権」や「抵当権などの担保物権」「賃借権」などが設定されている場合に、受遺者は遺贈義務者に対して、それらの権利を抹消させるような請求はできんのじゃ。
ワンポイントアドバイス
- 遺言者が別段の意思表示をしている場合には、それに従います。
債権の遺贈の物上代位(民法1001条)
民法1001条(債権の遺贈の物上代位)
- 債権を遺贈の目的とした場合において、遺言者が弁済を受け、かつ、その受け取った物がなお相続財産中に在るときは、その物を遺贈の目的としたものと推定する。
- 金銭を目的とする債権を遺贈の目的とした場合においては、相続財産中にその債権額に相当する金銭がないときであっても、その金額を遺贈の目的としたものと推定する。
(超訳)
- 遺贈する予定の債権が、遺言者の生前に弁済されてしまい、かつ、その受け取った物が相続財産中にある時は、その物が「遺贈の目的物」と推定されるのね。
- 受け取ったものが相続財産中に無い場合には、民法996条や同1023条2項によって遺言の効力は生じないか、民法999条によって償金請求権が目的となる場合もあるのじゃ~。
- 本条2項では、その債権が金銭であった場合には、相続財産中にその金銭自体が消費されて既に存在しなくても、その金額を遺贈したものと推定されるのじゃ。
ワンポイントアドバイス
- 本条1項の適用がある債権の遺贈とは、第三者に対する債権を遺贈する場合です。
- よって、受遺者の遺言者に対する債務を免除するために、受遺者に対する債権を遺贈したり、あるいは、受遺者の遺言者に対する債権と相殺するために第三者に対する債権を遺贈する場合は含まないのじゃよ。
負担付遺贈・1(民法1002条)
民法1002条(負担付遺贈・1)
- 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。
- 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
負担附遺贈とは・・
- 相続人、第三者あるいは社会公衆のために受遺者に一定の法律上の義務を課した遺贈のことをいいます。
- わかりやすく言うと・・・例えば・・・「1000万円をあげる(遺贈する)代わりに、高齢の妻の世話をしてね」というものです。
- この負担部分が、遺贈の利益の限度を越える場合には、その負担は遺贈の利益の限度では有効ですが、越えた部分は無効となります。
- 「遺贈」と「負担」は、相関関係となり、条件附遺贈とも似ていますが、違うものです。
- 停止条件附遺贈では、条件成就までは遺贈の効力が生じないが、義務を課すことはない。
- 負担附遺贈は、義務を課されるが、それの履行まで遺贈の効力が生じないということではない。
- 解除条件附遺贈では、
- 条件成就によって当然に遺贈の効力が消滅するのに対して、
- 負担附遺贈では、負担の不履行によっても当然には効力が消滅するものでは無く、一定の手続に基づき遺贈が取り消されることとなるのに注意じゃ!
ワンポイントアドバイス
- 負担附遺贈は、包括遺贈と特定遺贈との双方で行うことができるぞ。
- なお、負担が不能である場合、または、公序良俗に違反するような場合には無効となるが、注意すべきことは「遺言者が負担が無効なら遺贈しなかった」と認定される場合に限り、負担の無効が遺贈をも無効にするが、そうで無い限りは、遺贈は負担のないものとして遺贈されたものとしてその効力を生じることとなるのじゃ~。
負担付遺贈・2(民法1003条)
民法1003条(負担付遺贈・2)
負担付遺贈の目的の価額が相続の限定承認又は遺留分回復の訴えによって減少したときは、受遺者は、その減少の割合に応じて、その負担した義務を免れる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。
(超訳)
- 思い出して欲しいのじゃが・・
「相続を限定承認によって相続した場合」には、相続人は相続によって得た財産の範囲を限度として、被相続人の債務の弁済や遺贈を行うこととなり(民922条)、しかも相続債権者に弁済をした後でなければ、受遺者に弁済をすることができなくなる(民931条)のじゃ!
- さらに・・
「遺留分の減殺請求」がなされると、まず遺贈から減殺されることとなる(民1031条・1033条)のじゃ~
- いずれの場合にも、
遺言のとおりの遺贈を受け取ることができなくなる訳じゃ・・それなのに負担付遺贈の場合には、受遺者は負担のみを遺言通りに履行しなければならないとしたならば、不公平じゃろ?
- そこで、本条において負担付遺贈の場合に、遺贈の目的物の価額が減少した場合は、その割合に応じて負担した義務を免れることとした訳じゃね。
ワンポイントアドバイス
- なお、遺留分減殺請求について条文上では、「遺留分回復の訴え」となっているが、裁判外での遺留分回復請求であっても同様に考えて差し支えなかろうね♪
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