相続人の廃除
推定相続人の廃除という制度
民法892条・民法893条
- 息子は働こうともせず、日々ギャンブルを繰り返し,借金までつくって、挙げ句に親に肩代わりさせた。
- 息子は,妻や私に暴力をふるい「お前なんか早く死んでしまえ」などと暴言を吐く・・
そんなドラ息子には、一円も相続させたくない
- 長年愛人と生活をしている別居中の夫と離婚はしないが,私が死んでも私の財産を相続させたくは無い・・・
こんな場合には,「推定相続人の廃除」という制度を利用することができます。
民法892条(推定相続人の廃除)
遺留分を有する推定相続人(相続が開始した場合に相続人となるべき者をいう。以下同じ。)が,被相続人に対して虐待をし,若しくはこれに重大な侮辱を加えたとき,又は推定相続人にその他の著しい非行があったときは,被相続人は,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求することができる。
民法第893条(遺言による推定相続人の廃除)
被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは,遺言執行者は,その遺言が効力を生じた後,遅滞なく,その推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければならない。この場合において,その推定相続人の廃除は,被相続人の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。
(1)推定相続人の廃除という制度って?
- 遺留分も含め相続権を失わせる制度です
- 審議する家庭裁判所では慎重な判断が為されます
(2)相続の廃除は・・?
- 生前にも行えます(民法892)。
- 遺言によっても行えます(民法893)。
(3)相続人の廃除とは・・?
- 被相続人が,家庭裁判所に「推定相続人廃除申立」をして,推定相続人の持っている遺留分を含む相続権を剥奪する制度です
(4)申立人
- 被相続人
(5)廃除の対象となる人
- 遺留分が認められている被相続人の推定相続人
- 遺留分を放棄した者は廃除の対象外です
- 被相続人の兄弟姉妹は廃除の対象外です
(6)廃除の理由
- 被相続人を虐待した場合
- 被相続人に重大な侮辱を与えた場合
- 推定相続人に著しい非行があった場合
(7)著しい非行の例
- 浪費等を繰り返す
- 廃除の理由は主観的では足りません。
- 客観的・社会的に正当であるとする重大な事由が必要です。
(8)廃除の手続き
- 家庭裁判所に申立する
- 生前に被相続人が申立
- 遺言により(廃除の意思表示)遺言執行者が申立
- 廃除を求める遺言書には遺言執行者を定めておくことが必要です
- 家庭裁判所で廃除の調停が成立,又は,家庭裁判所で廃除の審判が確定 した日から10日以内に「推定相続人廃除届」を役場に提出(戸籍の身分事項欄に推定相続人から廃除された旨が記載されます)
(9)廃除の効果
- 廃除請求した被相続人に対する関係でのみ,相続権を剥奪される(廃除された者の子は代襲相続できます)。
廃除の取消(民法894条)
民法894条(廃除の取消し)
① 被相続人んは,何時でも,推定相続人の廃除音取消しを家庭裁判所に請求することができる。
② 前条の規定は,廃除の取消しにこれを準用する。
- 一度廃除された者でも,二度と相続できないというわけではありません
- 被相続人が,廃除された者に相続させてもいいと思うようになった場合,いつでも廃除の取消を請求できます(廃除の取消の理由を説明する必要はありません)。
(1)相続人の廃除は「取消し」ができます
相続人から廃除された者でも,二度と相続できないというわけではありません。
被相続人が,廃除された者に相続させてもいいと思うようになった場合,いつでも廃除の取消を請求できます。
(2)廃除の取消しの方法
- 廃除の取消は,被相続人(遺言による取消しの場合は,遺言執行者)が,家庭裁判所に請求をし,調停または審判によって,その効力を生じるものです。
- 生前に被相続人が申立
- 遺言により(廃除の取消の意思表示)遺言執行者が申立
- 廃除の取消を求める遺言書には遺言執行者を定めておくことが必要です。
(3)廃除の取消の理由
- 廃除の取消しについては,廃除の原因となった事実が止むとか,その他の事由の発生などの理由は,一切必要ありません。
- つまり・・家庭裁判所は,取消しの請求が被相続人の真意に基づくものであるか否かだけを審理すればよく,それが被相続人の真意にでたものであることが確認をされた場合には,必ず取消しの審判をしなければならない・・と言うことです。
(4)廃除の取消しの効果
- 取消しの審判は,被廃除者に対する告知によって,効力を生じることとなります。
- また,被廃除者は将来に向かって,推定相続人たる地位を回復することとなります。
(5)ワンポイントアドバイス
- 遺言によって「廃除の取消し」,及び,相続開始後に取消しの審判がなされた場合には,相続開始の時に遡って廃除がなかったと同様となります。
- ・・と言うことなので,遺言に「廃除の取消し」が書かれていたなどの場合には,廃除の審判が確定したのちに,「遺産分割協議」等を行うほうが賢明じゃないかな~。
廃除又はその取消しの審判確定前の遺産管理(民法895条)
民法895条(廃除またはその取消しの審判確定前の遺産の管理)
①推定相続人の廃除又はその取消しの請求があった後その審判が確定する前に相続が開始したときは,家庭裁判所は,親族,利害関係人又は検察官の請求によって,遺産の管理について必要な処分を命ずることができる。推定相続人の廃除の遺言があったときも,同様である。
②第27条から第29条までの規定は,前項の規定により家庭裁判所が遺産の管理人を選任した場合について準用する。
(1)廃除や廃除の取消しの審判前の遺産の管理について
- 廃除の審判の申立て後その審判の確定前に,廃除の申立てをした人の相続が開始した場合,それによって直ちに廃除の対象となった者が,相続人たる資格を失うものではない。
- この場合,相続権を失うかもしれない推定相続人も一応相続人として,遺産の管理や処分,あるいは分割に加わることとなります。
- しかし廃除の審判が確定すると,その者は「表見相続人」だったこととなり,相続回復の問題が発生したり,既にその者が第三者に対して相続財産を処分していた場合には,第三者は即時取得(民法192)の要件を充足しない限り,その財産を取得することができなくなることになり,取引の安全を著しく害することとなってしまいます。
- また廃除取消審判手続き中に被相続人が死亡した場合や,遺言によって廃除の取消しの意思表示が為された場合には,その審判が確定するまでは,相続権を有するかもしれない者を除外して相続財産を管理処分,あるいは,分割などを行うと,その者の利益を害する危険性があるし,廃除によって次順位者が推定相続人になっている場合,その次順位の推定相続人が「表見相続人」になってしまう事態が考えられます。
- そこで本条では,このような事態から生じる混乱を未然に防止するため,一定の者の請求によって,家庭裁判所に遺産管理に必要な処分を講じておく途を開いているものです。
(2)申立人
- 遺産管理に必要な処分を申立てることができるのは,「親族」「利害関係人」「検察官」です。
- 「親族」とは・・被相続人の親族と考えられています。
- 「利害関係人」とは・・広く遺産の管理保全について法律上の利害関係を有する者を言います。具体的には「相続債権者」「受遺者」「相続人の債権者」「遺言執行者」等が考えられます。
(3)必要な処分・・とは?
- 「遺産の処分禁止」・「占有移転の禁止」なども考えられますが,一般的には「相続財産管理人」を選任することが考えられます。
(4)遺産管理に必要な処分を申立ての効果
相続財産管理人が選任された場合には,廃除取消の相手方とされている推定相続人は勿論のこと,その他の共同相続人も,遺産に対する管理処分権を失うものと考えられています。
(5)ワンポイントアドバイス
- 被相続人が生前に廃除の請求を行った上で,さらに遺言で同一事由により廃除の意思表示を行い,かつ,遺言執行者を指定して遺産の管理・処分を委ねていた場合には,改めて相続財産管理人を選任する必要はありません。
(6)関係条文
第27条(管理人の職務)
- 前二条の規定により家庭裁判所が選任した管理人は、その管理すべき財産の目録を作成しなければならない。この場合において、その費用は、不在者の財産の中から支弁する。
- 不在者の生死が明らかでない場合において、利害関係人又は検察官の請求があるときは、家庭裁判所は、不在者が置いた管理人にも、前項の目録の作成を命ずることができる。
- 前二項に定めるもののほか、家庭裁判所は、管理人に対し、不在者の財産の保存に必要と認める処分を命ずることができる
第28条(管理人の権限)
管理人は、第百三条に規定する権限を超える行為を必要とするときは、家庭裁判所の許可を得て、その行為をすることができる。不在者の生死が明らかでない場合において、その管理人が不在者が定めた権限を超える行為を必要とするときも、同様とする。第29条(管理人の担保提供及び報酬)
- 家庭裁判所は、管理人に財産の管理及び返還について相当の担保を立てさせることができる。
- 家庭裁判所は、管理人と不在者との関係その他の事情により、不在者の財産の中から、相当な報酬を管理人に与えることができる
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