相続財産に関する費用
相続財産に関する費用について
民法885条
第885条(相続財産に関する費用)
① 相続財産に関する費用は,その財産の中からこれを支弁する。但し,相続人の過失によるものは,この限りでない。
②前項の費用は,遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産をもって,これを支弁することを要しない。
(1)「相続財産に関する費用」の意義
- 遺言処分の無い場合に,相続人が承継することとなる被相続人の財産の総体を「相続財産」といいます。
※ 「相続財産」=「遺産」とも呼ばれていますね。
- 「相続財産」は,被相続人(亡くなった人)が死亡した時に有していた「積極財産(プラスの財産・預貯金等)」「消極財産(マイナスの財産・借金等)」の総体を指します。
※ 簡単にいうと,預貯金が2000万円あっても,借金が3000万円ある場合には・・・マイナス1000万円が遺産となりますので,結局借金が相続されちゃいます。
- 一方では,被相続人の一身に専属したもの(民896但)および,祭祀財産(民897)は,相続による承継の対象とはなりませんので,相続財産から除外することができます。
- 被相続人の生命侵害による損害賠償請求権のように,被相続人の死亡によって発生するものは,相続財産に含めて考えるべきです。
- 相続財産は,相続人や受遺者が確定し,これらの者にここの権利義務が確実に移転するまで,誰かの管理下におかれることとなり,その管理,保存,清算など,またこれらに付随する行為のため,様々な費用が必要とされることがあります(例・・相続財産に対する公租・公課・必要費・有益費・生産費・財産目録調整費・訴訟費用・等々)。
- 上記のような費用を総称して「相続財産に関する費用」といいます。
- これらは,相続の開始後に生じる費用であり,いわゆる「相続債務」とも,相続財産自体について生じるものであるので,「相続人自身の固有の債務」とも,その性質を異にします。
(2)費用分担の原則
- 本条によって,「相続財産に関する費用は,相続財産の中から支弁するもの」との基本原則が定められています。
- 通常,この基本原則は相続の「限定承認」・「相続放棄」・「相続財産の分離」・「相続人の不存在」などの手続が取られる場合には意味をもちますが,単純承認による相続が為される場合には,相続財産と相続人の児湯財産とが一体化してしまうことになるので,両財産は混合し,その中から本条で言う費用が支出されることとなるので,単純承認による相続の場合には,この基本原則の意味は薄くなります。
- 結局,単純承認をした共同相続人は,これらの費用を,相続債務と同様に,それぞれの相続分に応じて負担することとなります。
- 共同相続人のうちの一人が,費用の全部を支出した場合には,当然に遺産分割において考慮されるべき事情になります。
(3)費用分担の例外
- 本条における費用分担の原則には,次の二つの例外が定められています。
① 相続人の過失による費用
- 例えば,相続財産の管理ができておらず,それによって生じた「無駄な費用」のように,相続人の過失によって生じた費用は相続財産の中から支出することは,他の相続人との関係で公平に反するので,相続人の固有の財産より支出しなければなりません。
- この場合に於ける過失の有無の判断基準となる,相続財産の管理に対する注意義務は,「相続人自身の固有財産のそれと同一程度の管理義務で足りる」とされています。
② 遺留分減殺の場合の特例
- 相続財産に関する費用は,遺留分権利者が贈与の減殺によって得た財産から支出することを要しません。
- これは,相続人の相続権としての最後の保証である遺留分をそれ以上に減少させることになり,遺留分の制度そものもの主旨に反するためといわれています。
- しかし,「贈与の減殺」のみで,「遺贈の減殺」があげられていないことで理論的におかしいと指摘もされていますが・・・本条2項においての例外規定は,「贈与」のみですので,注意が必要ですね。